組織マネジメント

「中小零細企業に優秀な人材が集まらない」は本当?

「中小零細企業に優秀な人材が集まらない」

このフレーズ、本当によく見聞きします。皆さんも一度は見聞きしたことがあるのではないでしょうか。

一見正しそうに思えるこのフレーズ、私は正しい表現だと考えていません。というより、「この文字数で表現できるものではない」といったほうが正しいかもしれません。その理由の説明を試みたいと思います。

 そもそも「人材」や「優秀な人」の定義をどのように設定するかによっても変わってくるかと思いますが、ここではその定義を健全な中小零細企業経営者がほぼストレスを感じないと思われる「自ら考え、自ら動ける人」と定義したいと思います。

この定義をした人をベースに「中小零細企業には優秀な人材が集まらないのは本当か?」を2つの段階から考えます。

 1つ目は、「応募者を数多く集められない」段階の企業について。

まず、中小零細企業では、応募者を数多く集めるノウハウを持っていないことが多いかと思います。それも仕方のないことで、例えば、あくまでも現状の人員を維持するための欠員補充中心の採用となれば数年に一度という頻度でしか採用活動を経験することができず、応募者を集めるためのノウハウを蓄積することが困難になります。また、求人を掛けたとしても「数名の応募者」しか集めることができず、急を要する採用を実施している企業の多くは、採用選考の最終的な局面において「妥協」を繰り返すことになります。この「妥協をした採用の結果」が良好になるはずがなく、冒頭の「中小零細企業に優秀な人材は集まらない」という結論が必然的に導かれてしまいます。

2つ目の段階は、応募者を数多く集めることはできるが、応募者を見極める技術を持たない企業について。

※ブランド力のある企業もこの範囲に入ります。

応募者を数多く集めるノウハウがあれば、優秀な人を採用できる確率は上がっていくように思います。

しかし、ここでも落とし穴があります。

それは、さまざまな選考手法における応募者を見極める当たっての精度の低さです。大半の企業は採用時に「面接」というオーソドックスな選考手法を選択します。このコロナ禍においては、WEB面接が主流になりつつもあります。皆さんは、この面接がどの程度の精度で人を見極められるかを理解していますか?

実際に面接を経験したことのある人なら分かると思いますが、面接官の技量に左右されますし、面接官の直観で判断されるということも多いでしょう。また、応募者が自由に発信できる状況であれば、好感を得るために演じ切ることもできるでしょう。

この状況のなかで、どこまで面接の精度が担保されているかは「不透明感たっぷり」と言っても過言ではないでしょう。

それゆえに「人は雇ってみるまでは分からない」というフレーズが横行するわけです。恋に盲目となった男女のカップルが結婚をして、一定の期間を経てからクールダウンしたときに出てくる言葉と類似しています。「こんな人だとは思わなかった・・」と。

面接においても、自分を上手に表現する力や体系立てて話す力などの「見えやすい能力」を見極めることは可能です。あくまでも「見えやすい(判断しやすい)」ので当然です。でも、担当してもらいたい仕事をする上で本当に重要になってくる「能力(仕事力)」は、応募者の価値観であったり、人格的な(心根の)部分であったりするので、前述したような応募者が自由に振舞える面接等で見極めることはあまりにも困難です。

例えば、応募者の「忍耐強さ」という力を見極めようとして、面接している時間においてその忍耐強さが確認できたとしても、それはあくまでもその面接時間内における忍耐強さであり、長期にわたって忍耐強いかどうかを証明する根拠にはなりづらいわけです。過去の行動を聞いて、その行動によって忍耐強いかどうかを判断すればよいのでは?という意見もあるかと思いますが、その忍耐強さについてはあくまでも本人の主観であり、本当に忍耐強いかどうかまでを証明できるものではありません。自分を客観視することは非常に難しいですし、ある意味、忍耐強かった場面を切り取って表現する人がほとんどでしょう。逆に、忍耐強くない場面があったとき、面接官に対してマイナスなイメージを与えてしまう言葉を発して良いかどうかの判断も難しいでしょう。それを「飾らない(自然体の)人」だと捉える面接官もいれば、そうではない面接官もいるので、事態はますます混迷を呈することになり、結局、「よく分からない」となるのです。

 この2つ目の段階で最終的に伝えたいことは、応募者を数多く集めることができたとしても、「人を見極める技術」を持っていなければ、結局、中小零細企業に優秀な人材はこないという結論が1つ目と同様に導かれてしまう確率が依然として高いままだということです。

この2つ目の段階にある企業がどうすれば優秀な人を獲得できるのか?

それはまず、「人を見極める技術」を保有するということ。これに尽きます。

なぜなら、この前提がなければ、いくら人を集めるノウハウを駆使して応募者を集めたとしても、導かれる結論が残念なものになってしまうからです。

実際、「人を見極める技術」を持てない中小零細企業が大半であることから、「中小零細企業には優秀な人材が集まらない」というフレーズは多くの中小零細企業にあてはまってしまいます。しかし、中小零細企業でもこの「人を見極める技術」を持ち、でき得る限り応募者にとって魅力ある処遇や仕事内容を提示できれば数多くの応募者を集めることができるので、“優秀な人”を獲得できる確率を高めていくことができると言えるのです。

採用は本当に奥が深い。

私自身、「中小零細企業に優秀な人は応募しませんよね」みたいなことをクライアントの経営者と話していた10年前の過去があるため、まったく人のことは言えませんが、今では「中小零細企業に優秀な人材が集まらない」というフレーズの一人歩きには大きな違和感があります。また、単純にこの言葉を発して、中小零細企業に優秀な人材が来ないことを正当化してもらいたくないという思いと、組織の発展と成長を願う経営者に「遠回りをしているようで、実は近道となる方法がある」ということを伝えていきたいと考えています。難しいんですけどね・・。

ABOUT ME
社会保険労務士 養父(ようふ) 真介
福岡生まれ大阪育ち、東京都杉並区在住。◆大学在学中の1998年に社労士資格を取得。◆コネなし・経験なし・僅かな資金で2008年に独立。◆2010年に「人の問題解決」に必要な根幹技術となる「アセスメントセンター」という「能力診断技法」と出会い、数百時間にも及ぶ「人を見極める」という機会を得て、多くの組織が抱える悩みの根源を知る。◆その後、その知見を活かし、クライアントの組織で発生するさまざまな「人の問題」への対応方法について具体的な解決手段を提示し、組織を健全に保つ手助けを生業としている。
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