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小さい事業所のための介護職員等特定処遇改善加算シンプル解説~介護福祉士資格をもつ勤続10年以上の職員がいなくても算定できるのか?~

介護職員等特定処遇改善加算について、いろいろと耳には入ってはくるものの、ハードルの高さを誤解し、「うちは算定できなさそうだから・・」と半ば諦めてしまって、情報収集をしていない事業所さんも一定数いらっしゃるのではないでしょうか?

特定加算は、確かに小規模な事業所より大規模な事業所のほうが運用上有利に活用できることになるかもしれません。ただ、本体の介護報酬アップが見込めない「3年ごとの報酬改定の流れ」のなかで、「取得できる加算」について確実に算定していかなければ、職員の処遇改善が進まず、結果として自社の給与水準が他社や他産業と比較しても見劣りしてしまい、求人も思うようにいかない・・・という負のスパイラルに陥ってしまう可能性があります(弊所のクライアントには、労働生産性が高く、加算Ⅱでも十分な処遇を実現している事業所さんもありますので一概には言えませんが、そういった事業所でも更なる差別化を図れるようになるはずです)。

介護職員等特定処遇改善加算の一番のネックは「制度の複雑さ」ですが、ある意味、小規模事業所のほうが内容さえ把握してしまえば、算定も賃金改善の方法も簡単です。以前のブログでは総合的な解説をしていますが、今回は小規模事業所に的を絞って解説します。また、前提条件として、現行加算(介護職員処遇改善加算のⅠ~Ⅲ)を取得されている事業所を想定しています。

まず、「よくある誤解」を解きましょう

ここ2か月程度、クライアントのご相談に応じ、多くの方が誤った認識を持っていることを確認してきました。その中で、最も多い誤解は以下の2点です。

「介護福祉士資格をもつ勤続10年以上の職員がいなければ新しい加算は取得できない」

「新加算を算定すれば、勤続10年以上の介護福祉士に月額8万円または年収440万までの賃金改善をしなければならない」

この2点の誤解をさくっと正すと以下のようになります。

・介護福祉士資格をもつ勤続10年以上の職員がいなくても算定できる

・合理的理由があれば、勤続10年以上の介護福祉士に月額8万円または年収440万までの賃金改善をしなくても良い

大事な認識として持っておいていただきたいのは、上記ポイントは特定加算の算定要件ではないということです。現行加算のⅠ~Ⅲを算定している事業所であれば、どの事業所でも算定できる可能性があります。ただ、グループ分けをし、そのグループ分けした中で賃金改善をするときの「配分ルール」としては上記ポイントを認識しておく必要があるため、この点を理解するのが若干ややこしいのです。

まとめ

「勤続10年以上の介護福祉士がいること」や「月額8万または年収440万までの賃金改善」は「算定要件」ではなく賃金改善をするときに考慮しなければならない「ルール」であること。

「特定加算の算定要件」とは

改めて特定加算の算定要件を確認しておきましょう。以下の3点です(2019年度は実質2点)。もし、現行加算Ⅰ~Ⅲを算定していなくても、特定加算の算定と同時に、現行加算の届出を行えば、特定加算の算定は可能です。

①現行加算Ⅰ~Ⅲを算定していること

②職場環境要件について、「資質の向上」、「労働環境・処遇の改善」、「その他」の区分で、それぞれ1つ以上取り組んでいること

③賃金改善以外の処遇改善の取組みの「見える化」を行っていること(2020年度からの要件)

グループ分けとは

対象事業所の全職員を「一定のルール」や「自法人の定義づけ(ただし、グループaのみ)」に従って3グループ(a、b,c)に分ける必要があります。その内容は以下のとおり。

【グループa:経験・技能のある介護職員】

・勤続10年以上の介護福祉士を「基本」とする(したがって、例外あり)

・介護福祉士資格を有していること(必須要件)

・勤続年数に関しては、他法人や医療機関等での経験等も「事業所の裁量」で通算することが可能(裁量の内容は計画書で明確にする)

・事業所の能力評価や等級システムを活用するなど、10年以上の勤続年数がなくても業務や技能等を査定して対象とすることもできる

・1つ目の誤解は、このグループ分けの【グループa】のルールにより生まれたもの

・“納得感のある定義づけ”を職員との話し合いやヒアリングの上、決定することが大切

【グループa】は、原則「経験・技能のある介護職員に重点化を図りながら、介護職員の更なる改善を図る」という特定加算の趣旨を踏まえ、事業所内で相対的に経験・技能の高い介護職員を【グループa】として定義づけしなければなりません。

しかし、介護福祉士の資格を有している者がいない場合比較的新たに開設した事業所など介護職員間における経験・技能に明らかな差がない場合などは設定する必要はありません。

逆に、「介護職員間における経験・技能に明らかな差があれば、必ず設定する必要がある」ということです。「故意にグループaを設定せず、すべてグループbに設定する」ということは特定加算の趣旨に反するので注意が必要です。

【グループb:その他の介護職員】

グループa以外の介護職員すべて

【グループc:介護職員以外の職員】

介護に従事していない管理者、医療職、運転手、調理員、栄養士、事務職員など

※既に年収440万を上回る職員については対象外であり、賃金改善後の年収も440万を上回ってはいけません。

「どのグループまで賃金改善するか」を決める

次に、グループ分けした中で、「どのグループまで賃金改善をするか」を決める必要があります。「グループaだけ」でも構いませんし(とてもシンプル)、「グループaとグループbの介護職員のみ」とすることでも構いません。「いやいや、うちはグループa~cまで賃金改善したい」ということであればそれでもOKです。ただ、次の配分ルールに従う必要があるため賃金改善の範囲を広げるとそれだけ検討事項が増えることになります。

グループ分けした後の「配分ルール」とは?

どのグループまで賃金改善するかを決めたあと、現行加算のように自由に配分して良いのではなく、次の①②のルールに従って配分する必要があります。

①届出する事業所が1つである場合、グループaのうち1人以上は「月額8万円または年収440万までの賃金改善」が必要です。ただ、既に年収440万の人がグループaにいる場合は新たに設定する必要はありませんし、「小規模な事業所等※」はこの条件を満たさなくても構いません。

※例外的にこの賃金改善が「困難な場合」は合理的な説明を求められますが柔軟な設定が可能

・小規模事業所等で加算額全体が少額である場合(地域密着型のデイなど)
・職員全体の賃金水準が低い事業所などで、直ちに一人の賃金を引き上げることが困難な場合
・8万円等の賃金改善を行うに当たり、これまで以上に事業所内の階層・役職 やそのための能力・処遇を明確化することが必要になるため、規程の整備や研修・実務経験の蓄積などに一定期間を要する場合

 

そもそも【グループa】の設定ができない合理的な理由があれば、誤解の2つ目「月額8万円または年収440万円までの賃金改善」のルールには縛られない

②グループa、b、cの平均賃金改善額について、「aグループは、 bグループの2倍以上」、「cグループは、 bグループの2分の1以下」にしなければなりません。いわゆる「4:2:1(もしくは、2:1:0.5)」のルールです。

例えば、300,000円の賃金改善の原資が見込める事業所で、グループa~cにそれぞれ対象者が一人ずついたとします。

bグループの1人に100,000円を払ってあげたい場合。この配分ルールに従うと、aグループの1人に200,000円を支払わなければいけなくなります。結果として、cグループの1人に配分する原資はなくなります。

a(2):b(1)=20万:10万 【計30万円】

また、cグループの1人に何とか賃金改善したいということで、50,000円を支払ってあげた場合、bグループの1人に100,000円、aグループの1人に200,000円を支払う必要があり、合計で350,000円となり、不足する50,000円(300,000-350,000=-50,000)は会社の持ち出しによる賃金改善となります。

a(2):b(1):c(0.5)=20万:10万:5万 【計35万円】

「事務負担だけでもかなり重いので、会社の持ち出しは極力したくない」という場合は、aグループの1人に171,429円、bグループの1人に85,714円、cグループの1人に42,857円支給することになります。

a(2):b(1):c(0.5)=171,429円:85,714円:42,857円 【計30万円】

・平均賃金改善額を算出するとき、常勤換算方法による算出が必要です。ただ、cグループについてのみ実人数による算出も可能

賃金改善を行わない職員についても職員の範囲に含める必要がある

特定加算額<賃金改善額とする必要がある。上記例ではわかりやすいようにキリのよい金額を設定しているが、受給した特定加算額より1円でも多く賃金改善しなければならない

2019年10月から算定するなら届出期限は「8月末」

ほとんどの自治体で8月末を届出期限としているため、残すところ2週間と少しになりました。また、総合事業分や福祉・介護職員等特定処遇改善加算分の書式もだいたい出揃いました。8月は検討するための余裕がないという場合は、1か月ずらして、9月に届出をすれば、11月から算定をできますし、もっとゆっくり検討したいという場合は、今年度は様子見をして、来年度から算定するということでも良いかと思います。事業所の安定的な経営のためにも、特定加算を是非有効活用してください。

さいごに

グループ分けや配分ルールには他にも細かいルールがあるため、シンプルにできない事業所は必ず厚労省のQAを確認するようにしてください。

また、各保険者でQAを出しているところもあり、グループ分けについても独自の柔軟な解釈をしているところもあるようです。厚労省のQAをベースに対応しておけば間違いはないかと思いますが、不安な点は必ず保険者に確認するようにしてください。これまで処遇改善加算の相談に応じるなかで、誤解をしていなかった事業所さんは残念ながらこれまで1つもありませんでした。疑問に思うことは些細なことでも確認しておくことが本当に重要です。不安を払拭したい場合は、Noppoの個別コンサルティングをご依頼ください。

ABOUT ME
組織人事コンサルタント・社労士 養父(ようふ) 真介
1977年生まれ。福岡生まれ大阪育ち、東京都在住。◆大学在学中に社会福祉法人で4年間ボランティアをしていたことをキッカケに1998年社労士資格を取得。◆コネなし・経験なし・僅かな資金で2008年に独立。◆2010年に「人の問題解決」に必要な根幹技術となる「アセスメントセンター」に顧客を通じて出会う。◆その後、その知見を活かし、クライアントの組織で発生するさまざまな「人の問題」への対応方法について具体的な解決手段を提示し、組織を健全に保つ手助けを生業としている。