給与額が大幅に変動したときに改定が行われる社会保険料の「随時改定」。その特例が今回の新型コロナ感染症の影響に伴って出ました。
※役員も対象ではありますが、基本は「労働者が休業して、給与が急減した場合」に適用される特例です。役員にこの特例を適用させる場合は必ず「よくある質問」を一読してください。年金事務所から問い合わせがあったことを踏まえて加筆しています。
「本来の随時改定」の仕組み
本来の随時改定は、以下の3つの条件をすべて満たす場合に行います。
(1)昇給または降給など(基本給や手当などの変更)により固定的賃金に変動があった
(2)変動月からの3か月間の給与の平均額(残業手当等の非固定的賃金を含む)を等級表に当てはめて、これまでの等級と比べて、2等級以上の差が生じた
※等級表の上限または下限にわたる等級変更の場合は1等級差でも随時改定の対象となります。
(3)変動月からの3か月とも支払基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上である
※支払基礎日数➡給与計算の対象となった出勤日数のこと
※特定適用事業所➡厚生年金保険の被保険者数501人以上の企業に属する事業所のこと
「3か月間の給与の平均額をみる」ということは、大幅な昇給や降給などがあっても「社会保険料はすぐには変わらない」ということなんですね。
具体的には、4か月目に変わるということになります。でも、こちらも翌月徴収にしている会社か当月徴収にしている会社かで少しわかりづらい・・。
例えば、末締めの翌月15日払いの会社で、4月15日支払い分から2等級以上の変更となる昇給をした場合、4月15日、5月15日、6月15日の給与の平均額をみるので、社会保険料が変わるのは「7月分~」となります。ただ、この場合、末締めの会社なので、7月分から社会保険料が(新しい標準報酬月額※に)変わったとしても、その7月分の改定された社会保険料を徴収するのは翌月の8月15日支払い分の給与となります。当月徴収の会社であれば7月支払い分の給与から変更します。
※標準報酬月額➡労使折半で負担をする厚生年金保険・健康保険・介護保険料の三つを算出するための基準となる仮の給与額みたいなもの
今回の特例改定の詳細
今回、新型コロナウイルス感染症の影響によって「休業した方」で、休業により「報酬が著しく下がった方」について、健康保険・厚生年金保険料の標準報酬月額を、通常の随時改定(4か月目に改定)によらず、特例により翌月から改定可能となりました。
詳細は以下のとおりで、すべてを満たす必要があり、同一の被保険者について1回のみ申請ができます。
(1)事業主が新型コロナウイルス感染症の影響により休業(時間単位を含む)させたことにより、令和2年4月から7月までの間に、報酬が著しく低下した月が生じた方
(2)著しく報酬が低下した月に支払われた報酬の総額(1か月分)が、これまでの標準報酬月額に比べて、2等級以上下がった方
※固定的賃金(基本給、日給等単価等)の変動がない場合も対象となります。
(3)特例による改定を行うことについて、本人が書面により同意していること
被保険者本人の十分な理解に基づく「事前の同意」が必要です。
というのも、改定後の標準報酬月額に基づき、傷病手当金、出産手当金及び年金の額が算出され、社会保険料の負担が減るというメリットだけではなく、減少に伴う「保障(給付)のデメリットもあるよ!」ということを理解しておく必要があるからです。ですので、もし、病気や出産を予定しているような方がいれば、特に注意してくださいね。
重要なポイントだけをサッと確認したい方はこちら
重要なポイントだけを抜粋したのが以下です。
①固定的賃金の変動がなくてもいい
②4月~7月の間の1か月が対象
③②の期間中に最低1時間以上の休業によって、2等級以上の減額がある
④減額した月の選択は可能 ※届出後に選択した月の変更は不可
⑤被保険者本人による書面同意が必要 ※届出日から2年間保存
⑥申請は1回のみ
⑦特例の改定は「8月まで」。9月以降は定時決定の標月が反映されるが、7月変や8月変の場合は算定が不要となり、休業が回復したときに随時改定を行う。
⑧申請時に必要な書類は、特例改定用の月額変更届+申立書
⑨電子申請は不可
⑩受付期間は、令和3年2月1日まで(令和3年1月末が休日であるため)
よくある質問
法人の代表者は、役員であって労働者ではないので、新型コロナの影響によって休業した方と言えるのかどうか疑問ですが、対象となりますか?
役員報酬を未払い計上して、あとで業績回復したときに支払うということであれば、対象外となりますが、実際に休業をして役員報酬を下げた場合は、今回の特例改定の対象になります(Q&Aにより)。注意点としては、業績が下がったから役員報酬を下げたというだけでは対象外になってしまうということです。
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2020/0625.files/02.pdf
ただ、さらに疑問も湧きます。
上記の詳細説明の【その他の留意点】の箇所に、届出等の内容を確認できる書類の例として、「休業命令が確認できる書類、出勤簿、賃金台帳、本人の本特例改定の申請内容への同意書など」と記載があり、役員であれば、休業命令が確認できる書類も出勤簿もないわけですよね・・。当然、賃金台帳に休業日数なんて記載もしません。この点については、議事録や同意書しか用意しようがないと思います。また、議事録においては「休業によって役員報酬を引き下げた」という文言を最低限盛り込んでおく必要があるかと思います。Q&Aにも特にこのことについて言及はないのですが、定期的に年金事務所の調査はあるので必ず準備をしておきましょう。
4月から休業を開始し、「4月はまだまだ様子見で休業手当を給与の100%を支払っていたが、5月以降はもっと支給率を下げた」というケースもあります。休業をした4月以降で、2等級以上下がった月が複数月ある場合、こちらの任意の月で特例改定をしても良いのでしょうか?
結論としては、「有り」です。「届出後に急減した月(急減月)の選択を変更することはできません」とは記載があるので、届出後は不可となりますが、届出前なら急減月を選択することが可能です。
「5月変だと2等級しか下がらないから、6月変で5等級下げたい」
※ただ、改定された等級が適用されるのは8月までなので、早めの月変が良いケースもあり。いろいろ考えると混乱しそうですね・・。
「5月変や6月変であれば定時決定が必要となり、特例の改定が適用されるのも8月分の保険料までとなってしまうため、7月変にしたい」
などの要望にも応えることができます。
7月・8月に特例改定が行われた被保険者は、休業が回復した場合に、月額変更届の届出が必要とされていますが、「休業が回復した場合」とは、どのような場合を指しますか?
報酬支払の基礎となった日(支払基礎日数)が 17 日以上となった場合を休業が回復した場合としていて、休業が回復した月(※1)から、継続した3か月間(各月とも、報酬の支払の基礎となった日数が 17 日以上。)に受けた報酬の総額を3で除して得た額が、その方の標準報酬月額(本特例改定によるもの)に比べて2等級以上上昇した場合(※2)に、届出を行います。
※1 休業が回復した月とは、急減月の翌月以降の月を指します。
※2 休業が回復した月から継続した3か月間に受けた報酬の平均に該当する標準報酬月額が2等級以上上昇、という条件を最初に満たした場合が対象となります。
このため、例えば、休業があっても、実際に何らかの報酬が支払われ、その報酬の支払の基礎となる日数が 17 日以上あれば、休業が回復したものとして取り扱われます。
特例改定においては、事業主からの休業命令や自宅待機指示などがあり、その間、使用関係が継続していれば、当該休業した日を、当該休業した日について支払われた報酬の有無にかかわらず、報酬支払の基礎となった日数に該当するものとして取り扱いますが、「休業が回復した場合」の判断における日数計算においては、報酬支払がなかった日は含めません。
また、7月・8月に特例改定が行われた場合に、上記のように、休業回復による届出を行うことが必要とされる月額変更届の取扱いは、来年の定時決定まで(令和3年8月の随時改定まで)の取扱いとなります。
3月の給与から休業により減額となっていますが、4月を改定月とすることができますか?
今回の特例改定は、令和2年4月から7月までの期間を対象としているため、4月を改定月とすることはできません。4月も休業が継続し給与が急減している場合には、4月を対象として、5月からの改定が可能です。
リーフレット(標準報酬月額の特例改定について)」
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2020/0625.files/01.pdf
申請時に必要な書類
以下のサイトからダウンロードできます。
①特例改定用の届出書(紙媒体)
②申出書
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2020/0625.html
届出先
管轄の年金事務所の窓口 ※郵送も可です
事務センターへ郵送しないように注意してください。
標準報酬月額の特例改定に係るQ&A
本日(7月2日)Q&Aがアップされましたので掲載しておきます。
なんとQ&Aの数は、「64」。ほとんどの疑問は解消されるかと思いますので、実務に携わる方は一読あるのみですね。
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2020/0625.files/QA.pdf
さいごに
休業手当が支払われている場合の定時決定も視野に入れる必要があり、現場は本当にてんやわんやですね。。ただ、社会保険料の負担は会社や本人問わず大きいので、提案をしてあげたいものです。あくまでも現時点(令和2年7月2日時点)での情報なので、不明な点があれば、管轄の年金事務所か当事務所までお問い合わせください。