労務管理

社内で感染者や濃厚接触者が出てしまった場合の給与や社会保障について

8月下旬から9月上旬にかけて、「社員の家族が感染した」「社員が濃厚接触者になった」という話をよく耳にするようになりました。デルタ株は風疹並み(同室を一定時間以上共有するだけで伝播が成立するほど)の感染力があると懸念されているため、どんなに注意をしていても常に感染と隣り合わせだと感じています。

もしも従業員が感染したときでも焦ることのないように、「陽性者となった場合」「濃厚接触者となった場合」に分けてお伝えします。特に、濃厚接触者となった場合の補償については、「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」という制度を活用できるので、事前に把握しておきましょう!

従業員が「陽性者」となった場合

感染経路が「業務外」で、健康保険に加入している従業員の場合

「傷病手当金」の申請が可能です。また、年次有給休暇が残っているなら、本人へ希望を確認したうえで、年休を消化してもらうという選択肢も検討してください。

支給される傷病手当金の1日当たりの金額は、以下のとおりです。

直近12か月の標準報酬月額を平均した額※ ÷ 30 × 2/3

※被保険者期間が 12 ヶ月に満たない場合は、①加入後の期間における標準報酬月額の平均額、または②加入者の属する保険者の標準報酬月額の平均額のいずれか低い額が算定の基礎となります。

支給される日数は、「療養のため労務不能となった日」から連続して3日間(待期期間といいます)のあと、4日目以降の仕事に就けなかった期間です。

【計算例】

最終的に2週間(14日間)休むことになった標準報酬月額が300,000円の人

(300,000円÷30)×2/3=6666.6円 ※四捨五入処理

1日当たりの支給額➡6,667円

(14-3※)×6,667円=73,337円

※待期期間の3日を除く。待期3日間については、有給休暇が残っていれば本人の希望を確認したうえで有給休暇を消化しても構いません。年休を消化しない場合は無給扱いとなります。

発熱などの症状があって自宅療養をするなかで、PCR検査等を実施して陰性であっても傷病手当金の申請は可能です。必要な書類については、状況によっても異なるケースがあるため、必ず保険者(協会けんぽ、組合健保、市町村国保など)に連絡をしましょう。

 

感染経路が「業務上※」の場合

「労災」で申請することになります。

支給される休業補償の1日当たりの金額は、以下のとおりです。

給付基礎日額※ × 80%※※

※原則は、発症日直前の3か月分の賃金÷暦日数

※※内訳は、休業補償給付60%+休業特別支給金20%

【計算例】

最終的に2週間(14日間)休むことになった月給300,000円の人

まず、給付基礎日額を求めます。

900,000円÷92日=9,782.6円 ➡9,783円 ※四捨五入処理

休業補償給付:9,783円×0.6=5,869円80銭・・・① ※円未満切捨て

休業特別支給金:9,783円×0.2=1,956円20銭・・・② ※円未満切捨て

①+②=7,825円

7,825円×11日※=86,075円

※4日目から支給されるため3日間を除きます。

※傷病手当金の場合、待期3日間について会社が補償する必要はありませんが、労災の場合は、休業初日から3日目までは、会社が平均賃金の60%の補償をしなければなりません。本人が有給休暇の消化を希望した場合は有給休暇を消化させることはできますが、会社が勝手に有給休暇を消化させることはできませんのでご注意ください

特に医療・介護に従事している方は、業務外で感染したことが明らかではない限り、労災の適用が可能です(通達)。また、お客さんと接する機会が多い方(小売、飲食業、美容業など)も客観的にみて、業務上感染している確率が高いと判断されれば労災に認定される可能性は高いと思います。

労災に認定されるかどうか不安なときは、厚労省に掲載されている「新型コロナウイルス感染症に係る労災認定事例」を読めば、イメージが湧きやすいと思いますので検索してみてください。一応リンクを貼っておきますが、読み込めなくなったときはGoogleで検索すればヒットすると思います。

また、PCR検査の結果、陰性であったとしても、その期間、「療養のため労働することができない」ことが医学的に認められれば、休業補償給付の対象となります。

 

健康保険に未加入である従業員の場合

感染経路が「業務上である(業務外で、例えば家族などから感染したことが明確でない)場合」であれば、労災で申請することも可能かと思います。

健康保険に未加入である従業員(パート、バイト、ヘルパーさん)が「業務外で感染した」となると、補償されるものはない(休んでいる間は無給)ということになってしまいますので注意が必要です。ただ、もし健康保険に未加入である従業員が市町村国保に加入している場合は、市町村国保の傷病手当金を活用できる可能性もありますので、その点についても確認したうえで伝えてあげてください。

 

従業員が「濃厚接触者」となった場合

労基法第26条には休業手当という条文があり、その条文には「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない」と規定されています。つまり、会社が休業になることを避けるため社会通念上での最善の努力や対応をしていない場合には、平均賃金60%の休業補償をする必要があるということです。

※民法536条の2項の帰責事由に該当する場合は、100%支給が必要となりますが、話がややこしくなるので、ここでは割愛します。

①濃厚接触の経路が「業務外(家族など)」で、保健所から自宅待機を命じられた場合

業務外での感染について会社に責任があるとは言えないので、休業補償の必要は無し(無給)です。

ただ、厚労省も「労使で十分に話し合っていただき、労使が協力して、労働者が安心し休むことができる体制を整えていただきたい」としています。在宅勤務ができる場合は在宅勤務をしてもらいましょう。また、有給休暇が残っている場合は本人の希望を聞いた上で、消化するかどうかの判断をしましょう。さらに、有給の特別休暇を設定することも選択肢の1つです。

②濃厚接触の経路が「業務上」の場合

たとえば、職場内でクラスターが発生し、その同僚と接触があった従業員を自宅待機とする(休業を命じる)場合には、休業補償(平均賃金の60%)が必要です。

上記①②に対する国の補償制度について

国がコロナ禍においてあたらしく創設した制度で、上記①②どちらに対しても「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」という制度を活用することができます。
https://www.mhlw.go.jp/stf/kyugyoshienkin.html ※上限あり

新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の1日あたりの支給額は、ざっくり以下のとおりです。

【休業前の1日当たりの平均賃金※】×80%×休業日数

※上限9,900円。令和3年4月までは上限11,000円。また、地域特例に該当する場合は引き続き上限11,000円
※平均賃金は、申請対象となる休業開始前6か月のうち、給与が高い月を任意で3か月選び、90日で割った金額

本来、②のケースは会社に補償の義務がありますが、このコロナ禍において財政的にも厳しい状況が続いている会社も多く、少しでも出費を避けたいと考えるのは致し方ないものと思います。せっかく国が創設した制度なので、活用できるなら活用しましょう。申請は会社でも本人でもどちらでも可能です。従業員にとっても、会社に義務付けられている休業補償より金額が大きくなることもあり、メリットはあります。

さいごに

今回は、従業員が新型コロナウィルスに感染した、もしくは、濃厚接触者となってしまったときの給与や社会保障について解説をしました。デルタ株も一定の収束はしつつあるものの、緊急事態宣言が解除されるなら秋から冬にかけて拡大傾向となるでしょうし、ワクチンを2度接種したとしても、感染しないわけではないので、予断を許さない状況はまだまだ続くことになるでしょう。社内で感染者や濃厚接触者がでたときの参考にしていただければ幸いです。

 

ABOUT ME
社会保険労務士 養父(ようふ) 真介
福岡生まれ大阪育ち、東京都杉並区在住。◆大学在学中の1998年に社労士資格を取得。◆コネなし・経験なし・僅かな資金で2008年に独立。◆2010年に「人の問題解決」に必要な根幹技術となる「アセスメントセンター」という「能力診断技法」と出会い、数百時間にも及ぶ「人を見極める」という機会を得て、多くの組織が抱える悩みの根源を知る。◆その後、その知見を活かし、クライアントの組織で発生するさまざまな「人の問題」への対応方法について具体的な解決手段を提示し、組織を健全に保つ手助けを生業としている。◆社会保険労務士法人法人Noppo社労士事務所 TEL:03-6454ー6084 ※お電話の場合、まず職員が対応しますので、「ブログを見て問い合わせた」とお声がけ頂けるとスムーズです。
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