厚労省実施の調査で「過去3年以内にパワハラを受けたことがある」と回答した人の割合は何と3割超。都道府県労働局における「いじめ・嫌がらせ」の相談件数も2019年度には8万件を超えており、相談件数が高止まりの状態です。このような背景のもと、パワハラ防止法(正確には「労働施策総合推進法」)が2022年4月より中小企業にも適用されます。
プレイイングマネージャーでもある中小企業経営者にとっての一番の関心事は、
「具体的に何をすれば良いの?」
ということかと思います。「会社が最低限対応しなければならないこと」については別途お伝えしますが、その前にまず「ハラスメント対策が法律云々以前になぜ重要であるのか」についてお伝えしたいと思います。
結論から先にお伝えすると、法律が施行されていなくとも、
経営者の目が行き届かない組織ほど対策は重要と言えるでしょう。
理由は、ハラスメントが社内で発生する確率が「想定しているよりも高い」からです。
なぜ、高くなるのかというと、それは、多くの中小企業経営者の言質(嘆き)からも導くことができます。
「管理者候補がいない・・」
「管理者はいるが、適切なマネジメントができていると思えない・・」
「各部門に必要な管理職がいない・・」
「うちには右腕(幹部候補)がいない・・」
「え?なぜ管理者の話をここで持ち出すの?」と思った方も多いと思いますが、「ハラスメントの防止」と「適切な管理者の配置」は非常に密接な関係があると私は考えています。
多くの企業では、かなりの確率で「思ったとおりの採用」はできていません。
「思ったとおりの採用」ができていないというのは、どういうことかというと、採用した人に満足できていない確率が高いということです。企業側の問題のときもありますが、ここでは採用された側の問題としておきます。
その場合(採用された側の能力に問題がある場合)、採用された人に何らかの満足できない仕事ぶりが発生することになるので、上司である管理者の役割として、その人の良さを活かすための「チーム内の采配」がより重要性を増すわけです。
たとえば、「この人の欠点を補うには、あの人との組み合わせが良い」とか、「この人は許容範囲が広いから、あの人と組ませても大丈夫」など。個々の特性を上手に捉えた采配が重要になりますし、その采配ができないと、チーム内に遅かれ早かれ不協和音が発生し、状況次第では一気に瓦解することもあり得るわけです。
したがって、「適切な管理者」がいないとハラスメントの発生する確率が想定より高まってしまうことがあるのです。また、ここでいう「適切な」というのは、前述したような采配もできる「問題解決能力を有する管理者」と定義します。社内に適切な管理者がいないと、問題が表面化(炎上)するまで気づくことができないため、社内で発生するさまざまな不協和音を事前に察知することもできませんし、対応が後手後手になってしまいます。
問題が表面化したときに、会社としてきちんと向き合おうとするのであれば、まだ対応する方法もありますが、その時点では既に多くの人が心に傷を負っている状態になります。また、「臭い物に蓋をする(人と向き合うことを経営者層が拒否する)」というような末期状態であれば、もう、どのような手を施したとしても、手遅れとなってしまうでしょう。
逆に、問題解決能力を有する人を適正に管理者へ登用できていれば、ハラスメントの問題はかなりの確率で防止することができます。なぜなら、その管理者は先述のとおり個々の能力や性質を見極めて仕事を進めていくため、問題の火種があれば、早期解決に取り組もうとするでしょうし、地道な話し合いを積み重ねていくため、感情的なやり取りを回避し、無用な紛争にも発展しないよう努めるからです。
というわけで、ハラスメントが対岸の火事ではないことを認識するための大事なステップをお伝えします。
その1
社内の人員を見渡し、適切な人を管理者に据えているかを確認する
その2
適切な管理者がいないとしても、自分(経営者自身)で社内の個々の能力や性質について思いを巡らせ、リスクを認識する
※リスクを認識するのは客観的な視点がないと難しいかもしれません。なぜなら、本来ならリスクとして捉えるべき行動も、「そういうものか・・」といった判断でやり過ごしているケースが本当に多いからです。自分がもつ違和感を大切にし、その違和感をどのような行動をもとに感じたのかを第三者(信頼できる人事の専門家など)に伝えてください。
その3
経営者自身で社員個々の能力や性質を判断できていないのなら、ハラスメント問題は、「対岸の火事ではない」ということを認識する
とはいえ、真っ当な幹部候補や管理者候補を採用するという抜本的な解決策を施すことは、非常に難しいのも現実。人手不足である業界であれば尚更です。
なぜなら、「成功するための採用」は、
「すべての応募者が採用基準に達していないとき、全員を見送る」
「数ある応募者から選び抜く」
というプロセスが不可欠になるからです。
だからこそ、真っ当な幹部や管理者がいない状況では、組織内で何が起こるか分からないのですから、パワハラ防止法で義務付けられたことを実施することにも十分価値があるでしょう。あとあと問題が発生したときに、法律で定められたことを実施していないと、まずはその部分を追及されることにもなりますしね。
私自身、パワハラの被害者でもあります。当時の上司は、明らかに一線を越えた指導をしていました。その頃を振り返ると、すべて自分に非がないとは全く言えないのですが、もし自分が上司なら、私という人間を同様に扱うか?と言ったら間違いなくそのようにはしないでしょう。
まずは、その人の人間性を見極め、なぜ、ミスをするのか、なぜ問題となる行動を取ってしまうのかを分析します。そのうえで、「怒る」というプロセスを経ずに、どうしたらこの人は、ミスをせず、問題行動を取らなくなるようになるのか対策を考え、そのミスや問題となる行動を未然に防止できる策を講じていきます。それでも、ミスや問題となる行動が発生するとは思いますが、そこから先はどこまで許容できるかということですね。人間の忍耐にも限界がありますから、感情的なやり取りに発展する前に、何らかの次の対応を取る必要があるでしょう。
経営者の目が行き届かない組織になればなるほど、ハラスメント対応は今後ますます重要な課題になります。子供社会でもいじめがなくならないように、大人社会でもいじめがなくなるとは思えません。会社として、最低限やるべきことはやったうえで、さらなる対策(そもそもパワハラをするような人を採らない採用基準など)を講じれるようにしていきたいですね。
法令の内容を詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
ハラスメント防止法について
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