題名を読んで「何のこと?」と思った方も多いかもしれませんが・・。
私は、人を雇い入れてビジネスを展開している中小・零細企業経営者の方々に、採用では「“採らない勇気”が本当に大切です」とお伝えしています。
しかしながら、多くの方がこのことを実践することができず、人にまつわる悩み・ストレスを常に抱えています。
「一定の仕事力を持ち合わせている人以外(リスクのある人)は採用しない」という認識は(後段で詳述)、私の中では「当たり前」となっているものですが、多くの方には当たり前ではありません。
しかし、この感覚を持ち合わせていないと、いつまで経っても採用で失敗を繰り返してしまいます。
今回は身近な事例(靴選びの失敗)から、少しでも「当たり前」の認識に近付いてもらうために書いていきたいと思います。
妥協して買ってしまう理由とその結果
私は靴を買うのが苦手です。その理由には、そもそもあまり靴に興味がないということもありますが、靴のサイズが大きい(28㎝)ということが最大の要因です。
靴をお店に買いに行き、「この靴がいいな」と思ったとしても、28㎝以上のサイズを在庫として用意していない店舗が多く(ボリュームゾーンではないので、商売上は仕方ないのですが)、そのプロセスが重なることによって、いつしか「ある程度許容できるデザインで、足が痛くなく履けたらいい」という考え方になってしまったのです。
しかし、そのような妥協した判断においても失敗するケースは多いというのが実情です。
昨年も趣味で始めたパデル(テニスとスカッシュをハイブリッドしたラケット競技)の靴を買いにいこうと御徒町のテニスの専門店まで行ったのですが、「これ、いいな!」と思ったデザインのサイズはまたしても無く、最終的には選択肢は2足となり、もう1足は自分の好みとは余りにもかけ離れていたので、納得感は微妙ではありますが、ミズノのシューズを買うことにしました。
そのシューズも最初のうちは「少し足のつま先が痛いな・・」という程度で済んでいたのですが、最近では2時間程度の練習や練習試合をすることも増え、まだ半年しか使用していないのに我慢できない痛みになってしまいました。
人選びによる失敗で容易に解雇することはできない
「納得できる人が出てくるまで採用で妥協はしないでください」とお伝えしていますが、前述のとおり、それでも多くの経営者がそのような方針を残念ながら徹底することができません。
私の事務所では、「労使トラブルを未然に防止すること」を使命の1つとしているので、この点を非常に歯痒く感じているのですが、靴選びに失敗してしまう自分の心理状態を鑑みれば、改めて「やむを得ないことだろうな」と思うに至りました。
ただ、靴選びによる失敗はその靴を捨てれば済む話ですが、人選びによる失敗で、容易に人を解雇することはできません。当然、採用した責任もありますし、解雇は自由ではないからです。
昨今の求人難で、「人を選んでいる場合じゃない」という事情は分かります。
しかし、採用しても、最低限、投資した分を回収できなければ、採用した意味などないはずです。
私はこれまで「この採用は、一切のプラス要素はなく、むしろマイナスであり、なぜもっと慎重に採用ができなかったのだろうか・・」と思わざるを得ない残念な採用シーンを幾度となく見てきました。
期待や希望に満ちた採用を失望や絶望に転じないためにも、人は”必ず”選び抜かねばならないのです。
私が「採らない勇気」を持つに至った理由
私は、2010年3月、採用(人材)アセスメント(以下、採用アセスメントとします)という「人を見極める」ための選考手法に、顧問先からの紹介を通じて出会いました。
出会いのキッカケや内容については本題から外れるので別の機会に譲りますが、この採用アセスメントの最大の特徴は、
「応募者の“入社後の姿”を採用前に観ることができる」
ということにあります。
「そんなことが本当にできるの?」と思われた方も多いかもしれません。
私自身もそうでしたので・・。
靴選びに少し話を戻しますが、もし今自分の選択した靴が、その後、使用しているうちに使いづらくなったり、使えなくなったりすると事前に予測できていたら、まず購入しませんよね?ムダなお金を使うことになりますので。
それと同じ理屈なのですが、応募者が入社後に求める能力を発揮してくれない、頼みたい業務をまったく遂行してくれないということが分かれば、普通の感覚を持っていれば、内定などは出さないと思います。
それ(採用前の人の見極め)をかなりの精度で実践できるのが採用アセスメントなのです。
私もこの選考手法に出会った当初は前述したとおり「半信半疑」でした。
私の性格は母曰く「石橋を叩いても渡らない慎重な性格」ですから(ただ、情報を収集し、考えつくして、やってみなければ分からないときは突っ走りますけどね・・。)。
しかし、顧問先が採用アセスメントを導入し、私も顧問社労士という立場で、その選考に立ち会わせてもらい、実際に採用された人材が活躍をする複数の事例を目の当たりにすると、疑いの目を持つことは自然と無くなっていきました。
そして何より、経営者が求めている「普通の人」「まともな感覚を持っている人」「リスクのない人」を採用すること自体、非常にハードルが高いことであり、逆に、そのハードルを満たさない応募者があまりにも多いという「怖さ」を目の当たりにしてきたのです。
私には、「人を観る」という貴重な機会を数多く得たことと、実際に顧問社労士という立場でさまざまな会社の「人に関する悩み」を聞き、解決に導く仕事をしているため、安易な採用によってどれだけ多大な損失を被ることになるのかを「実体験」として知っていること、これらのことが、私に「採らない勇気」を与えてくれているのだと思います。
靴選びと人選びで失敗する共通心理と正しい方法
選択肢の少ない靴選びの失敗要因は、
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・せっかくここまで買いに来たのだから買ってしまいたい
・違和感が少しあるけど、今週レッスンもあるし履いているうちに何とかなるかもしれない
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と、苦しい・面倒だと思うことから逃げ出したいという気持ちや、自分に合う靴をすぐに必要としているが故の「気の焦り」が主な原因ですが、採用における失敗要因も以下のとおり似通っています。
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・せっかく数十万のお金と労力を求人募集に掛けたのだから、誰か採用したい!
・違和感があるけれど、雇ってみなければ分からないし、現場からは早く人を補充して欲しいという要望が上がってきている・・
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正しい靴選びは、できれば靴の専門家に自分の足型を計測してもらい、その足型に適したシューズを、1つでも選択肢を増やしたうえで、インソールを含めさまざまなパターンを検証し、試し履きをし、もしその店舗に無ければメーカーから取り寄せてもらうか、他の店舗を探し続けて、違和感のない納得感のある1足を探しだすことだと思います。
採用は、「採用したい」という欲求が、そもそも採用担当者の目を曇らせてしまうので(この理由は別の機会にお伝えします)、客観的に応募者の行動を観察できる仕組みを少しでも多く取り入れ、採用担当者がリスクとなる行動を把握する技術を持ち、違和感は放置せず、その違和感の原因を追究し、解消されないなら、採用せず、あらゆるリスクを排除した中で残ってくれた人を採用するという徹底したリスクマネジメントが大切になります。
応募者が少ない現実といかに向き合うか
「言いたいことは分かるけど、やはり、うちは選べるほど応募者がこない」という苦しい胸の内が聞こえてきます(こちらの声のほうが多数派だと思いますが・・。)。
しかし、そのときに突きつけられているのは、
「御社のビジネスは、応募者にとって魅力的に映りますか?」
ということです。
もし、NOということであれば、もうそれは残念ながらどうしようもないでしょう。
ただ、自社の魅力を伝えきれていないようなケースも実際には多々あります。
そんなときは外部の専門家(社労士でも良いです)に聞いてみるなり、自社の魅力を発掘したり、魅力づくりのための努力が間違いなく必要です。
当然、経営者自身が自社のビジネスに希望や展望をもたねばならないでしょう。
採用に対する覚悟
自社の商売が継続しているのは、社会の役に立っているからです。
どのみちお客様に選ばれなければ、応募者に選んでもらうこともできません。
いま選ばれているのであれば、その選ばれている理由を考え、それでも魅力が足りないのであれば、魅力を増やす方法を考え、一人でも多くの人に会社を知ってもらうための「発信する努力」を怠らず、地道に取り組んでいくしか方法はありません。
当然時間もかかります。
ただ、その先に、求める人材との出会いが「必ずある」はずです。
「必ずある」という理由ですか?
簡単です。
そんな努力をしている会社は、想像以上に少ないからです。
ですから、まずは、採用に対する自分なりの「覚悟」が何より重要になってくると思います。