令和3年度の報酬改定により、介護・福祉事業所が取り組まなければならないことがいくつかあります。その点に気づくのが「運営指導のとき」となれば、どの経営者も冷や汗をかいてしまうのではないでしょうか。
今回は、既に施行済みのハラスメント対策とこれからある程度の時間を掛けて取り組んでいく必要のあるBCP対策などをざっとまとめておきましたので参考にしてください。
ハラスメント対策の強化【※未対応の方は早急に取り組みを!】
令和3年度介護報酬改定において、パワーハラスメント及びセクシャルハラスメントなどのハラスメント対策として、全ての介護サービス事業者に、必要な措置を講ずることが義務付けられました。
「え?中小企業であれば令和4年度からでは?」と思われるかもしれませんが、介護・福祉事業所に関しては、中小企業についても令和3年度から前倒しで義務付けられています。
最近の運営指導(旧実地指導)においても、ハラスメント対策を問う機会が増えていることを実感しているので、必要な措置を講じていない方は、今からでも対策を取るようにしてください。
ハラスメント対策の具体的な内容については以下の記事を参考にしてください。
解釈通知において、「カスタマーハラスメント防止」の措置を講じることも推奨とされていますのでご留意ください。
感染症対策の強化【全サービス共通】
介護サービス事業者に、感染症の発生及びまん延等に関する取組の徹底を求める観点から、以下の取組が義務付けられました。
◆施設系サービスについて
現行の委員会の開催、指針の整備、研修の実施等に加え、訓練(シミュレーション)の実施
※現行は「衛生管理等」において規定されています
◆その他のサービスについて
委員会の開催、指針の整備、研修の実施、訓練(シミュレーション)の実施等
※3年の経過措置期間あり(令和6年3月31日まで努力義務)。
※サービス基準(省令37号)
運営基準が変更されるので、運営規程も経過措置期間中に変更する必要があります。
【運営規程】※訪問介護を例とします。
(衛生管理等)
第●条 訪問介護員等の清潔の保持及び健康状態の管理を行うとともに、事業所の設備及び備品等の衛生的な管理に努めるものとする。
2 労働安全衛生法及びその他関係法令の定めるところにより、事業所の従業者に対し感染症等に関する基礎知識の習得に努めるとともに、年 1 回以上の健康診断を受診させるものとする。
3 事業所は、事業所において感染症が発生し、又はまん延しないように、次の各号に掲げる措置を講じるものとする。
(1)事業所における感染症の予防及びまん延の防止のための対策を検討する委員会(テレビ電話装置等を活用して行うことができるものとする。)をおおむね 6 月に 1 回以上開催するとともに、その結果について、従業者に周知徹底を図る。
(2)事業所における感染症の予防及びまん延防止のための指針を整備する。
(3)事業所において、従業者に対し、感染症の予防及びまん延の防止のための研修及び訓練を定期的に実施する。
業務継続に向けた取組の強化【全サービス共通】
感染症や災害が発生した場合であっても、必要な介護サービスが継続的に提供できる体制を構築する観点から、全ての介護サービス事業者を対象に、業務継続に向けた計画等の策定、研修の実施、訓練(シミュレーション)の実施等が義務付けられました。
※3年の経過措置期間あり(令和6年3月31日まで努力義務)。
※サービス基準(省令37号)
厚労省のサイトで以下の「感染症発生時」「自然災害発生時」のガイドライン、BCP※のひな形、作成手順の研修動画(令和3年度)が掲載されていますので、参考にしてみてください。
※BCPとは、Business Continuity Planの略称で、業務継続計画と訳されます。
運営基準が変更されるので、運営規程も経過措置期間中に変更する必要があります。
【運営規程】※訪問介護を例とします。
(業務継続計画の策定等)
第●条 事業所は、感染症や非常災害の発生時において、利用者に対する指定訪問介護〔指定予防訪問事業〕の提供を継続的に実施するための、及び非常時の体制で早期の業務再開を図るための計画(以下「業務継続計画」という。)を策定し、当該業務継続計画に従い必要な措置を講じるものとする。
2 事業所は、従業者に対し、業務継続計画について周知するとともに、必要な研修及び訓練を定期的に実施するものとする。
3 事業所は、定期的に業務継続計画の見直しを行い、必要に応じて業務継続計画の変更を行うものとする。
無資格者への認知症介護基礎研修受講義務づけ【全サービス共通】
介護に関わる全ての者の認知症対応力を向上させていくため、介護に直接携わる職員が認知症介護基礎研修を受講するための措置が義務付けられました。
経過措置期間終了までに資格を有さない全ての従業員に研修を受講 させるとともに、新たに採用した従業者が資格を有していない場合、採用後 1 年を経過するまでに研修を受講させなければなりませんが、この場合についても、経過措置期間は努力義務となります。
※3年の経過措置期間あり(令和6年3月31日まで努力義務)。
※サービス基準(省令37号)
◆義務付けの対象とならない者は以下のとおりです。
・看護師
・准看護師
・介護福祉士
・介護支援専門員
・実務者研修修了者
・介護職員初任者研修修了者
・生活援助従業者研修修了者
・介護職員基礎研修課程修了者
・訪問介護員養成研修課程一級課程・二級課程修了者
・社会福祉士
・医師
・歯科医師
・薬剤師
・理学療法士
・作業療法士
・言語聴覚師
・精神保健福祉士
・管理栄養士
・栄養士
・あん摩マッサージ師
・はり師
・きゅう師
・柔道整復師
・福祉用具専門員(QAより)
・歯科衛生士(QAより)など
※社会福祉主事(任用資格)、認知症介助士、認知症ケア専門士は義務付けの対象です。原則「医療・福祉関係の資格」を保有していない場合、受講は必須となります。不明瞭なときは必ず指定権者に確認するようにしましょう。
◆受講義務づけの対象となるサービスについて
訪問系サービス(訪問入浴介護は除く)、福祉用具貸与、居宅介護支援以外の全サービスです。
高齢者虐待防止の推進【全サービス共通】
全ての介護サービス事業者を対象に、利用者の人権の擁護、虐待の防止等の観点から、虐待の発生又はその再発を防止するための委員会の開催、指針の整備、研修の実施、担当者を定めることが義務付けられました。
※3年の経過措置期間あり(令和6年3月31日まで努力義務)。
※サービス基準(省令37号)
運営基準が変更されるので、運営規程も経過措置期間中に変更する必要があります。
(虐待防止のための措置に関する事項)
第●条 事業所は虐待の発生又はその再発を防止するため、以下の措置を講じる。
(1)虐待の防止のための対策を検討する委員会(テレビ電話装置等の活用可能)を定期的に開催するとともに、その結果について、職員に周知徹底を図る。
(2)虐待の防止のための指針を整備する。
(3)職員に対し、虐待防止のための研修を定期的に開催するために研修計画を定める。
(4)前3号に掲げる措置を適切に実施するため、担当者を置く。
2 虐待又は虐待が疑われる事案が発生した場合には、再発の確実な防止策を講じるとともに、市町村へ報告する。
さいごに
令和6年3月末を期限とするものについても、残り「約1年半」です。
令和3年度の報酬改定がスタートしてから、あっという間に1年半が経過したことを考えると、早々に着手しておくことに越したことはありません。特にBCP対策は時間も労力も必要です。外部の専門家の力も借りつつ、計画的に準備をすることをお勧めします。