人を雇うことは簡単です。
求人募集を出して、面接をして、内定を出せばいいだけだから。
でも、
「自分で考え、自分で動ける人」を採用することが想定以上に難しいのはもちろんのこと「お願いしたことをきちんとこなしてくれる人」を採用することさえハードルが高い現実があります。
強調したいので、もういちど、
「想定以上に」
です。
多くの人が「採用の失敗」という同じ轍(わだち)を歩く
多くの人は、採用決定後、新人への期待に反して苦しむことになります。
「なぜ、お願いしたこともできないのだろうか・・」
「なぜ、お願いしたこともせず勝手なことをするのか・・」
「なぜ、何度指導しても同じミスを繰り返すのか・・」
「なぜ、これだけ待遇を改善しているのに、不平不満ばかりをこぼすのか・・」
挙げだしたらキリがないくらい精神的なストレスを被る出来事が発生していく確率が高い・・。
それはひとえに、「採用判断ミス」が原因です。
これらの問題行動を頻発する人を指導や教育でどうにかしようと考えがちですが、指導や研修等でどうにかなる問題ではありません。
(とはいえ、採用した側には「採用した責任」もあり、指導を続ける必要があることは強調しておきます。)
しかし、実際、多くの人が同じ轍(わだち)を歩いてしまいます。
ほぼほぼ歩いてしまう・・。
そして、その失敗を繰り返しながら、企業を成長させていくことになるわけです(多くの企業は「成長」ではなく「膨張」と言い換えても良いかもしれません)。ただ、いかんせん、運よく「自立思考の人や言ったことをきちんとこなしてくれる人」が採用できれば組織はまとまっていきますが、それができていない中で採用を繰り返していくと、経営者の心は徐々に疲弊していき、いつか限界に達してしまうでしょう。
「採用後」に苦しむか、それとも、「採用前」に苦しむか
その解決方法はなにか?
と問われれば、やはり、“選考方法”を見直すしかないという解になります。
間違っても、
●組織を変える魔法の5か年経営計画書
●人を成長させる人事評価制度
●人間力を開発する研修
などの取り組みに舵を切らないことです。
経営計画書を作ることや人事評価制度を導入することについて否定するものではなく(弊所もこれまで人事評価制度の導入支援をしていますので・・)、問題の本質ではないこれらの取り組みをいくら精一杯頑張ったとしても、一向に組織は変わりませんし、変わったと主張する人がいれば眉に唾を付けて、本当かどうかを確かめたほうが良いということをお伝えしたい。机上の空論ですよね?と。
また、その選考方法を「単に」見直すだけでうまくいくかというと決してそうではありません。
例えば、選考方法の見直し案として、
●面接回数を増やす
●面接における質問の内容を変える
●適性検査の導入
●一般的なグループディスカッションを実施するなど
の方法を思い浮かべた方が多いはず。
しかし、これらの方法で応募者を見極めることはかなり難しいのです。
なぜでしょうか?
これらの方法は、応募者が“作為的に回答を操作する”要素が大きいからです。
※他にも応募者の「素の状態」を炙り出すことができないという構造的な欠陥もあり、結局、その人の資質を理解しないまま採用することになります。
もし、その作為的な操作性を極力少なくした選考方法を選択できたとしましょう。
その選考方法が適正であれば、今度は「採用できない」という苦しみを高い確率で経験することになります。「中途採用では特に」ということも付言しておきます。
これまでは、
選考時に判断ミスをして(応募者を見極められなくて)、採用した「後」に苦しむ
選考方法を「適正に」見直したあとは、
採用する「前」に苦しむことになるのです。
もし、採用前に苦しみを味わうことが少ないなら、選考方法を見直す余地が十分にあるということを認識しておいたほうが良いかもしれません。
とはいえ、ほとんどの会社に改善の余地があるといってもあながち間違いではないでしょう。
「対人」で真剣に苦しんだ人だけが選考手法の最適解に
辿り着く可能性が高まる
「人を雇う」ということは本当に重大な責任を伴う経営判断です。
選考方法を見直し、採用する「前」に苦しむという選択肢を取ると、採用「後」は幸せになる確率がグッと高まります。
もちろん全てというわけでもなく、会社側に問題があれば、労働者側が幸せになる確率が下がってしまうでしょう(労働者側にも会社や経営者を見極める目が求められます。とはいえ、入社してみるまでわからないことの方が多いと思いますが、できる限り情報収集をして、違和感があればやめる決断をすることも重要です)
採用はとても前向きな人事施策なだけに、新しく入社してくれる人に「あれもお願いしたい」「こんなことをやってもらいたい」と、様々ななことを期待します。
しかし、その期待が絶望にかわるケースをこれまで数多く見てきただけに、労使ともに幸せになる採用活動や選考方法が世に広まっていくことを、誠実な経営者が苦しんでいる姿を見るにつけ願うばかりです。
「適正な選考手法」を見つけ出し、採用時に応募者を見極められるようになることは、決して容易なことではありません。
しかし、採用で失敗した(自社に人を見極める技術がなかった)ことを認識し、入社した人の責めにせず、対人関係の痛みを心に刻むことができれば、必ず辿り着けることができるはずです。
”たった一度の失敗”が致命傷にもなりかねないのが「採用」
最近、日本における解雇のハードルは本当に高い・・と思わせる地裁判決がありました。
社内での窃盗、2人の女性社員へのセクハラ、業務上のミスが多く在職中になんと4度の異動。
裁判官は、会社側(大企業の子会社)の対応を全く根拠のない不当なものではないとは指摘したようですが、顧客に多大な迷惑が掛かっていないし、セクハラも重大とはいえない、として不当解雇と判断。
・・・
大企業は新卒一括採用で一定数の人数を確保しなければならないため、このような人的リスクを抱えることは致し方ないとも思いますが、中小零細において、このような人的リスクを抱えることは余りにも影響が大きく、さすがに耐えきれないでしょう。
現実的にはこのような裁判まで発展するケースは数%ではないかと思います。ただ、「たった一度の失敗」が致命傷にもなりかねないのが、「希望を抱いてはじめた採用」だということも認識しておいて欲しいと思います。
さいごに
採用については、かなり悲観的な内容で書いてしまいます。
職業柄、人で苦しんでいる経営者と対峙している時間が比較的多いということ、あまりにも安易な採用が蔓延っている現状と採用の”闇の側面”を伝える内容が情報として少ないということがこのような内容を書く動機になっているように思います。
私自身は、”適正な選考手法”を導入し採用した結果、朝早くから夜遅くまで年中無休で仕事をしていたのが、夜遅くまで働くことや土日祝に働くこともほぼ無くなり(どうしても早朝は仕事をしていしまいますが・・)、子どもと過ごす時間を増やすことができるようになりました。
ハードワークをしている、または、ハードワークをせざるを得ない状況に陥っている経営者ほど、適正な選考手法に見直すことで、経営者が率先して、仕事と家庭のバランスをほど良い感じにできて、そこから生まれる心の余裕代が、社員との関係をさらに良質なものにしていくと思います。
一度立ち止まって、選考手法を見直してみませんか?