日本では、年休の取得率が低迷しており、「正社員の約16%」が年休を1日も取得していません。
また、「年休取得ゼロの人たちは長時間労働の比率が高い実態もある」ということもあり、年5日以上の取得が確実に進むような仕組みを導入することを適当と判断し、義務化されます。
「なんだ5日か・・」と思った方もいるかもしれませんが(当然、逆もあり得るかと思いますが)、これも国が考える一里塚です。2020年には約13日を取得目標としていることからも、この強制取得の日数は今後も増えていくと考えておいたほうが良いでしょう※。
※社会保険の適用拡大と同じ考えです。今はパートの20時間以上30時間未満の社会保険加入も501人以上の大企業のみとなっていますが、すでにその内容も再検討がはじまっており、順次、中小企業にも拡大が実施されていくはずです。時期はまだ未定ですが・・。)。
概要について
10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し(管理監督者含む)、年次有給休暇のうち5日について、毎年時季を指定して付与しなければなりません。
対象者とは
年次有給休暇が10日以上付与される労働者に限られますが、所定労働日数が少ない労働者(パート等)も一定の条件と勤続年数によって対象となるため、注意が必要です。
たとえ短時間であっても、週5日働くパートさんについては、正社員への付与日数と変わりはありません。
週の労働日数が4日の方については勤続3年半~、週3日の方については勤続5年半~10日以上が付与されることになるので、この義務化の対象者になります(下表の矢印部分をご参照ください。)。
具体的な実務対応のポイント
①まず実態把握をしてください。
対象者ごとに過去の取得状況を確認しましょう。取得が進まない対象者には、時季指定が必要になります。
② 取得させる方法は3つです。以下の2)や3)を選択する場合、協定書や就業規則の整備が必要になります。
1)労働者本人の時季指定による取得
2)労使協定締結による計画的付与(一斉付与・交替付与)
3)労働者本人の希望を聞いた上で使用者による時季指定(年次有給休暇取得計画表を作成して対応)
③特に対象者の多い会社は管理方法の見直しも視野に
法律どおり入社半年後に年休を付与している場合、取得義務の対象期間が労働者全員異なることになるため管理が煩雑になります。そこで、以下のような方法もあります。
1)基準日を月初などに統一する【おススメ】
例)入社日が4/10と4/20の人
➡10/1に10日の休暇を付与(10/10や10/20に付与するのではなく)
➡10/1~翌年9/30までに5日の取得義務
2)基準日を統一する斉一的取り扱いの導入
基準日を統一すると、一斉に基準日に年休を付与することになるため、管理自体は容易になります。ただ、デメリットとして、付与する日について法を下回る取り扱いができないため、法よりも前倒しで年休を付与することになります。
また、基準日については、年1回にする方法や年2回にする方法もあります。
年1回のほうが管理はしやすくなりますが、入社するタイミングによって大きく前倒しをして付与することになるため、前倒しで付与したタイミングで「年休を消化してから辞めます」などと言われでもしたら、会社としての損失は大きくなることになります。
年2回にすると前倒しが緩和されることにはなりますが、管理をする担当者が制度をきちんと理解する必要があります。
※基準日の変更も就業規則の改定が必要です。
実際にお客様から寄せられた質問
なります。通達で半日単位による付与を認めており、半日単位での付与に制限を加えているわけではないなので、0.5×10回で5日という与え方も可能と考えます。年休の趣旨からは逸れ気味だとは思いますが・・。
通達で「対象にならない」と明らかになりました。所定労働時間8時間の会社で年休を時間単位取得し、計40時間になり、5日分となったとしても、取得義務のある5日をクリアしたことにはなりません。
4月1日が年休の付与日(基準日)ではない労働者については、「経過措置」として4月2日以降の最初の付与日の前日までの間は、改正前の「旧法(現行どおり)」で取り扱うことになります。
例えば、2019年7月1日が付与日の労働者は7月1日からこの「改正法」が適用され、年休5日の取得が義務づけられることになります。
なりません。あくまで「当年度」の付与日数が10日以上の労働者が対象となります。
※年休の時効は2年であるため、年休の付与後1年間に消化しきれなかった場合に、繰り越すことになります。
労働者ごとに、年休を付与した日(基準日※)から1年以内に「5日」について、原則として取得時季を指定して年休を取得させなければなりませんが、必ず5日間の時季指定を会社がしなければならない」ということではありません。時季指定は原則です。ただし、労働者が自ら取得すればそれでOKです。また、会社の時季指定は、基準日から一定期間(例えば、半年)が経過したときに年休の請求・取得日数が5日未満となっている労働者に対して使用者が行えば良いでしょう。
※基準日は、法定通りであれば、「入社半年後」となります。
例)4/1入社者
➡「10/1」が以後年休を付与していく「基準日」となります。
年次有給休暇管理簿の準備を進めてください(3年の保存義務あり)。
年休管理簿には、労働者が年休を取得した具体的な日付、日数及び基準日を記載しなければなりません。
こちらの質問も多く頂いていますが、罰金までのプロセスは、「一般的には」以下のようになります。
労基署の監督官が事業所に調査(定期監督や申告監督)
↓
法違反あり!
↓
是正勧告や是正指導
↓
前向きに取り組まない
↓
再監督
↓
重大かつ悪質と判断
↓
書類送検
↓
起訴
↓
違反確定
↓
罰金
したがって、監督官が調査にきたときに「うちに年休なんて制度ありませんから!」や「うち労基法に加入していませんから!(耳を疑いたくなるような主張ですが・・)」などのような応答をせず、是正に対して前向きな態度で臨めば罰金になるようなことはないと言えます。実際、今まで当事務所で対応した労基署の調査で罰金に至ったことは一度もありません。